物件の瑕疵・・・売主と媒介業者の説明義務違反等
紛争の内容
中古マンシヨンにおける専有部分内の電気温水器からの漏水に対し、売主は説明義務、媒介業者は調査・説明義務に違反したとして、債務不履行による損害賠償責任の一部が認められた事例
東京地裁・判決平成24.11.7
東京地裁・判決平成24.11.7
- 買主Xは、平成22年6月、売主Y1から東京都江東区にある中古マンション(以下「本件建物という)を媒介業者Y2の媒介により売買代金3,380万円で購入し(以下「本件売買契約」という)、同月内に物件の引渡しを受けた。
- Xは、Y2との間で、本件売買契約の締結前に、本件建物の売買に関する媒介契約(以下「本件媒介契約」という)を締結し、約定報酬額537,000円及び消費税を本件売買契約の締結後に支払った。
- 本件建物内部については、少なくとも平成22年3月頃から電気温水器(以下「本件温水器」という)から相当大量の水が流出し、その範囲は押し入れ、廊下及びリビングルームの広範囲にわたって浸水し、リビング側の壁内部やカーペット下にカビの増殖を招くという漏水の客観的状況があった。
- Y1は、同年5月、本件建物査定の際、Y2に対し「10日程前に本件温水器から漏水が生じ、同設置箇所内のリビング側の壁に水が滲み出た。現在は本件温水器の使用をやめており、漏水は止まっている。本件温水器は修理不可能であり交換が必要である。」との説明をした。
- 本件売買契約に際して、Y2からXに対し、重要事項説明の後に、「物件状況等報告書及び本件設備表」に基づき本件建物の状況が説明されたが、Y1・Y2はXに対し、本件温水器からの漏水については特段の説明をしなかった。
- Xは、本件建物入居後の同年6月下旬に、Y2に対し「温水器設置箇所の壁内側にカビがある、壁の下には濡れた痕がある。」等と報告し、本件売買契約を白紙に戻してほしいと述べた。
- Y2は、協議のうえで、同年7月中旬から実施した本件建物の補修工事の費用及びXの仮住まい費用として217万円余を負担した。
一方、Y1は、同年9,月に「本件温水器からの漏水については十分説明し、Y2にはその旨確認してもらっており、『物件状況等報告書』の記載はY2の指示によるもの。」と主張して、Xとの交渉を拒絶した。 - このため、Xは、(a)本件建物の売買契約時における適正価格と本件売買代金の差額956万円、(b)媒介手数料の差額15万円、(c)慰謝料300万円の計1,271万円余の支払いを求めて、平成22年10月にY1・Y2を相手方とする訴訟を提起した。
各当事者の言い分
買主Xの言い分
- Y1は本件売買契約に付随する義務として、買主であるXに対し、本件温水器からの漏水に起因する本件建物の被害を説明すべき義務がある。
- また、Y2は、媒介業者として、売主からの情報に基づき自ら調査・確認し、買主に説明する義務がある。
- にもかかわらず、Y1・Y2はこれらの義務を怠った。
売主Y1の言い分
- 不動産取引において媒介業者が介在する場合には、特段の事情がない限り、媒介業者に対して十分な説明を行うことにより、当事者の説明義務は果たされると解すべきである。
- 本件漏水については、物件査定時にY2に十分説明しており、本件トラブルはY2がXへの説明を怠ったことによるもので、Y2は売主に責任を転嫁している。
媒介業者Y2の言い分
- 漏水に関しては、Y1から「最近、漏水が発生した。本件温水器は使用を中止したので漏水は大丈夫である。」との説明を受け、室内の当該箇所を視認したが、漏水の痕跡は見つけられなかった。
- Y1からの説明に基づき、予見可能な範囲で必要十分な調査を実施し、その内容をXに説明しているので、調査・説明義務の違反はない。
本事例の問題点
- Y1・Y2各々について、説明義務違反、調査義務違反等の責任が認められるか。
- Xの損害額の妥当性、およびY2の支出した補修工事等の費用が損害の填補として控除されるか。
本事例の結末
判決では、Y1の説明義務違反、Y2の調査・説明義務違反(いずれも債務不履行責任)を認め、Xの損害賠償請求の一部を認容した。売主Y1の説明義務違反について
- 本件売買契約第10条では「本物件について、本契約締結時における状況等を別紙『物件状況等報告書』に記載して説明する」とあり、本件建物の性能、価値、その価格に影響する重要な事項につき、買主に正確な情報を提供する趣旨の規定として特に定められたものである。
- Y1が、本件報告書の「1.売買物件の状況⑦漏水等の被害」欄で、「無」に丸を付して浸水の事実を記載しなかったことは、漏水等の被害について、自らの認識していた
事実を正確に説明する義務に違反したものである。 - 本件売買契約に基づく説明義務は、売主Y1が買主Xに対し直接負担すべき義務であり、媒介業者Y2に漏水の事実を伝えていたとしても、Y1のXに対する説明義務が軽減されることはない。
媒介業者Y2の調査・説明義務違反について
Y2が本件建物の買受けについてXとの間で媒介契約を締結した場合、Y2は、本件媒介契約上の善管注意義務の一態様として、本件建物の価格決定に対し重要な影響を与える事項について必要な調査を行い、Xに対し説明をすべき義務を負っている。
Y2は、本件媒介契約上の調査・説明義務を尽くさず、Y1の本件建物査定時における説明を安易に信じ、Xに対し本件漏水事故を説明しなかったというべき。不動産取引
の専門家であるY2は、売主Y1の説明が不十分であるかもしれないことを前提として、自らの調査をすべきである。
なお、Y2の調査・説明義務違反とY1の説明義務違反とは競合する関係にある(競合してXの損害発生に作用したものである)。
の専門家であるY2は、売主Y1の説明が不十分であるかもしれないことを前提として、自らの調査をすべきである。
なお、Y2の調査・説明義務違反とY1の説明義務違反とは競合する関係にある(競合してXの損害発生に作用したものである)。
Xの損害額等について客観的に評価した本件漏水による価格の下落分は、Y1・Y2の債務不履行と相当因果関係のある損害となるとし、
(a)裁判所が認定した本件建物適正価格と本件売買代金との差額372万円
(b)媒介手数料の差額6万円
(c)慰謝料相当額30万円をXの損害額とした。
Y2の負担した補修工事等の費用にっいては、本件漏水事故による損害を実質的に回復したものとして損害額から控除するとし、残額のユ90万円余についてY1・Y2に支払いを命じた。
(a)裁判所が認定した本件建物適正価格と本件売買代金との差額372万円
(b)媒介手数料の差額6万円
(c)慰謝料相当額30万円をXの損害額とした。
本事例に学ぶこと
本事例のcheckpoint
- 物件の蝦疵や付属設備の不具合等は、所有者(売主等)しか知りえないことも多いため、「業法の解釈・運用の考え方」でも、「協力が得られるときは、売主等に告知書を提出してもらい、これを買主等に交付することにより将来の紛争の防止に役立てることが望ましい。」とされている。これに基づいて、実務では「告知書」「付属設備表」などを売主等から買主等に交付する取扱いが行われている。
- 媒介業者としては、売主には物件状況等に関する説明義務があることを十分認識してもらい、正確な情報をこれらの書面で買主に提供してもらうよう努める必要がある。
- また、媒介業者には、不動産取引の専門家として、自ら調査し買主に説明する義務があるとされ、売主の説明義務とは補完関係ではなく、競合関係にあることを十分に認識すべきである。
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